皆さんは「円形脱毛症」と聞くとどんなイメージを持ちますか?「髪の毛が抜けるだけ」と思われがちな円形脱毛症ですが、症状の重症度は様々で、人種や性別を問わず、あらゆる年代に発症する病気です。今回はそんな円形脱毛症について、その原因や治療法をご紹介します。
〈円形脱毛症とその原因〉
円形脱毛症とは、突然に円形の脱毛が見られる疾患です。脱毛症状は、頭部に一部円形に出ることもあれば、頭部に多発する場合もあります。また、毛の生えている部分であれば体中どこにでも起こり得る疾患です。
日本では従来、その発症原因として精神的ストレスが強調されてきました。しかし、現在では円形脱毛症の根本的な原因は、本来細菌やウイルスなどの病原体を攻撃する免疫が、なんらかの異常な働きによって自分自身の毛を異物として認識することで、脱毛が起こる「自己免疫疾患」と考えられています。
〈当院で受けられる治療〉
当院では、円形脱毛症の患者さんに対し、以下の治療を行っています。
・薬物療法:脱毛部位にステロイドを外用する方法や、抗アレルギー剤・免疫を調整するような内服の処方をする治療
・光線療法:週に1~2回紫外線を照射し、毛包を攻撃するリンパ細胞を抑える治療
☆当院でできない、もしくはしていない治療は、希望があれば基幹病院に紹介することとなります。
〈その他の治療法〉
例えば、以下のような治療は基幹病院への紹介となります。
①ステロイド内服薬療法:抗炎症作用のあるステロイド内服薬の服用による方法
②ステロイド注射療法(局所注射・点滴):ステロイドを患部に注射、または短期間入院して大量のステロイドを点滴する方法
③「JAK(ジャック)阻害薬」による治療法:
新しい治療の選択肢として、近年注目されている「JAK阻害薬」についてご紹介します。
JAK阻害薬は、円形脱毛症の発症に関与し、毛根への攻撃信号にかかわるサイトカインの働きを抑えることで、免疫細胞による毛根への攻撃を抑制します。具体的には、臨床試験において、薬の効果と安全性が承認された「オルミエント」が治療薬として使用されています。
円形脱毛症が発症する仕組みは、サイトカインが細胞の受容体に付着することで、JAKというたんぱく質を介し、毛根への攻撃信号が伝えられるというものです。
JAK阻害薬による治療法は、オルミエントを服用することで、毛根への攻撃信号が細胞へ伝わらないようにする方法です。
(※頭部における脱毛面積がおおむね50%以上、過去6カ月程度自然に再発毛がない患者さんが対象となります。)
☆JAK阻害薬「オルミエント」は、服用開始前に服用の可否を問診や血液検査、レントゲン検査を通じて確認します。使用希望の方には、安全性を考慮し、基幹病院への紹介を行っております。
④局所免疫療法、スーパーライザー療法、冷却治療など
・局所免疫療法:人工的にかぶれを起こす化学試薬を使い、頭皮にかぶれを起こさせることにより発毛を促す治療法
・スーパーライザー療法:皮膚の奥まで届く特殊な赤外線を脱毛斑に照射する治療法
・冷却治療:液体窒素を脱毛斑にあて、誤作動を起こした免疫細胞の働きを抑えて、毛髪の再生を図る治療法
当院では、患者さんそれぞれのお悩みに寄り添い、症状改善に向けた最善の治療を提供しております。円形脱毛症にお困りの方は、お気軽に当院へ相談にいらしてください。
【参考文献】
・『円形脱毛症ガイドブック』.日本イーライリリー株式会社(2022)
・『オルミエントを服用される円形脱毛症患者さんへ』.日本イーライリリー株式会社(2022).〈監修〉大山学(杏林大学医学部皮膚科学教室教授),下村裕(山口大学大学院医学系研究科皮膚科学講座教授)
・『一緒に考えよう円形脱毛症のこと』.株式会社スヴェンソン.〈監修〉斎藤典充(なごみ皮ふ科院長医学博士),野村有子(野村皮膚科医院院長医学博士)
・『Visual Dermatology Vol.22 No.3 特集:JAK阻害薬を上手に使おう』pp263-271.秀潤社(2023)
・『皮膚科Q&A 脱毛症』.公益社団法人日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/q10.html