(ウイルス性疣贅、尋常性疣贅)
いわゆる、患者さんが伝えてくれる「いぼ」とはウイルス性であることが多いです。
治療としての第一選択は液体窒素療法です。窒素を-196度にしたら液体となります。ウイルス自体を冷凍凝固することにより死滅させる効果と免疫に対する刺激としての効果を期待して患部に液体となった窒素を塗布します。「いつ治りますか?」とよく聞かれます。「平均7回くらいで治るといわれています」とはお伝えしますが治りにくいことが多いです。
以前、同居の実父が頭部に1㎝程度のウイルス性疣贅ができたので私が治療いたしました。液体窒素4,5回で完治しました。外来で毎週患者さんの液体窒素療法をしていますが毎日観察できる経験はあまりありません。時折同僚の皮膚科医や職員がイボになることもありますが毎日のようには見ないですし、そもそも1mm程度で気づいて治療をこっそりしていることも多いので毎日経過を見る経験はありませんでした。実父は典型的な尋常性疣贅ではなく、液体窒素療法をすることに躊躇もいたしました。ウイルス疣贅は典型的だと診断は簡単ですが修飾されていたり、小さすぎたり、腫瘍と混在していたりすると診断が難しいです。しかも一度液体窒素療法を開始すると徐々に修飾され、イボであったのかさえ分かりにくくなります。足底などに出来た場合は最後には胼胝に見えるようになります。要するにウイルスの量が減るので所見は目立たなくなるのです。治療の辞め時が難しいのです。少し良くなると「もう治療終了していいでしょうか?」と患者さんはいいます。しかし、見た目に全く正常に見えるくらいになっても再発するから厄介なのです。最近では見た目がわからないくらいよくなったので終了する場合はビタミンD外用を1か月ほどダメ押しで外用しながら様子を見るようにと教科書にも書いてあります。そこまでよくなって再発した患者さんは見た目がきれいになってもダメ押しで液体窒素を継続してほしいと言われます。私もせっかくそこまで治療したのでそれくらいがいいと思います。初回の診断で自信が持てない場合、患者さんには親切に「はっきりとわからないので一旦何もせずに経過をみましょう。もう少し大きくなったら見せに来てください」というと怒り出す患者さんもいます。診断が難しいときがあり、一旦治療をやりだすと辞め時が難しいのでもしかしたらやらなくていい治療をしてしまうということを説明するのですが理解してもらえないのでしょう。皮膚を局所麻酔したうえで一部切り取り縫合する検査、いわゆる生検もありますが悪性を疑わない限りは現実的ではありません。検査で切り取ってもまた再発します。もちろん検査してもわからないときもあります。さらにわからない場合はPCR検査などになりますが保険も通らず高額になりますのでこれも現実的ではないと思います。「とりあえず液体窒素してくれ」と言われたので週に1回液体窒素療法のみを致しました。毎回みるみると驚くほど小さくなりました。4,5回目にはようやくわかる程度の跡形になっておりました。一旦完全に治癒したように見えても再発するのが嫌なところです。その旨を説明しましたが面倒がり、まだ治癒していない可能性もありましたが経過を見ることとしました。その後数週間で跡形もなくなり、現在も再発していません。治ったと思った患者さんは自己判断で来なくなることも多いです。違うことで来院されたときに経過を聞くことがありますが実父のような経過をたどったのでしょう。
難治な患者さんは治らないし、ちょっと治療をさぼったりしたらすぐに悪化したり、増えたりしています。数か月治療をしなくても悪化しない患者さんもおられ、さまざまな経過をたどります。2年間で7割治るとも言われています。当クリニックでは通いやすくしているためにきちんと治療される方が多いです。難治なためにいろいろな補助療法もおすすめしています。保険の通らないような特殊な治療はしていません。ここには書きませんがたくさんの方法はあります。保険では漢方によるヨクイニン内服、タコに使うサリチル酸外用、角化に使うビタミンD外用などが補助療法です。交互に使用してみたり、組み合わせたりなど試行錯誤しながら工夫をします。ウイルス性疣贅に特異的な薬剤がありませんので免疫学的、物理的、化学的、薬学的な工夫するよりありません。例えばイボを削ることも物理的にウイルス量を減らし、物理的に刺激を与えることで免疫学的な刺激にもなりますので効果がありますのでお勧めいたします。おすすめはしませんがイボ剥ぎ法といってハサミでイボを出血させるくらいに剥ぐことによって物理的除去と物理的刺激を与えることも有効であるといわれています。ウイルスは厄介です。放っておけば増えたり移ったりウィルス量も増えます。見た目も良くない上に、押したりつまんだりしたら痛いと放っておいていいことはありません。時間はかかるかもしれませんが地道に治療することをお勧めします。いろんな刺激を加えていくことが大切です。あとイボ地蔵があるように暗示をかけることも大切と言われています。免疫は精神的な要素でも強くなったり弱くなったりします。イボは時間がかかるだけで必ず治ります。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 京都駅前さの皮フ科クリニック 院長 佐野 陽平
イボの原因や京都駅前さの皮フ科で実施している治療方法についてはこちらのページをご覧ください。
参考文献
清水晶:液体窒素では難治な尋常性疣贅患者に次なる一手を打つための極意, MB Derma, 2018;275:40-45.
渡辺大輔,他:尋常性疣贅診療ガイドライン 2019(第 1 版),日皮会誌,2019;129(6):1265-1292